ライナーノート(1/3)

YANA



   今年2月に"MOZ@RT 1999"を発表してからもうすでに半年が経過した。この間にそれまでは私(YANA)単独の活動であったDTM作品発表に於いて貴重な仲間が戦力として加わってくれた。このアルバムでプログラミングを担当した黒瀧君である。


 彼は昨年より私のスタジオに出入りしDTMオーケストラ・データ制作に関する技術を磨いてきたが、今回私のプロデュースのもとでいよいよ作品を発表することとなった。そもそも彼と私の付合いは結構古く、間に大きな空白期間があるもののおよそ20年になる。もともとは学生時代の音楽仲間であったのだから、このような関係はある意味では自然な結びつきといえるだろう。
 黒瀧君は3年程前からDTMを始め、当時まだニューヨークにいた私のところに作品を送ってきてくれたのが今日まで続く新たな関係の始まりとなった。プロの調律師であり、またアマチュアながらすぐれたチェロ弾きでもある彼のDTMの作品は、ことに弦を中心とした響きの美しさに大変優れたものを持っている。


 マーラーの音楽は私自身も非常に好きな音楽の一つであるが、その代表作である交響曲の演奏に関してはさまざまなアプローチがあることは、皆さんよくご存知のことと思う。しつこいほどに歌い、大きなダイナミクスをつけるようないわゆる「粘った」演奏から、極力あっさりと透明感や形式的な統一感を重視する演奏まで、実に多様なアプローチがあるといえよう。
 その観点から黒瀧君のマーラーを評するならば「バランスのとれた演奏」という表現がもっとも近いだろう。過度に流されず、しかし強調すべきところはしっかりと強調するという点で、極めて自然でいながら説得力のある演奏になっていると思う。また、響きの美しさは特筆すべきものである。


 当然のことながらDTM音源を用いてのMIDI演奏には限界もあるが、我々は「音楽を追求する。」言い換えれば「音色や表現について、可能な限りの美しさや説得力を持ちうる努力を払う。」ということで一致している。その結果としてのこのマーラーの演奏について、音楽表現上のアドバイザーという立場で関わった私としては充分な満足感と達成感を持っている。(彼本人にしてみれば、思いはひとしおであろう。)
 黒瀧君自身について言えば、彼自身別に「本業」と呼べるものを持っており、今後どのようなペースで作品を制作し、発表していくことが可能かは微妙である。本来ならばすでに次回作の制作に取りかかっていても良いところかもしれないが、将来については全く未定である。私としては極力時間を取って、また新作に挑戦してもらいたいという思いが強いのは、いうまでもないことだが・・・。


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